あらもうそこのあなた、あなた、あなた。
あーん、もう知ってます、知ってます、あなたすげー困ってるでしょ、困ってる、うん、そんなのすぐにわっかるよーその浮かない顔見れば、ほんと男前が台無しじゃんー。
もうね、こっちはいつもあなたのことばっかり考えて暮らしてるんだから、わかる、わかるってば、もー早く言ってよねー。
お兄さん、アレでしょ、ホワイトデーに何を返したらいいのかわからないんでしょ、知ってる、知ってる。
仕方ないわねー、そんなウブだけどかわいい男のためなら、アタシが一肌脱いだげてもいいのよー、誰がおっさんだ、てめえデスクにカードキー置きっぱなしにしたまま外出して締め出されてえのか。
あのね、あなた根本的なところがわかってないから言っておくけどねえ、よく贈り物は気持ちが大事だとかなんだとか言うわよねえ、ええ、ええ、それはそれはとっても素敵な話だと思うのよねー。
だけどねお兄さん、アタシはそういうお兄さんのピュアなところは好きなんだけど、伝わらないんだよ。
まったく伝わらないんだよ、てめーのその自己満足のカタマリみてーなもんをポイと渡されてもよ。
それよりもね、もっと表面的なことにこだわったほうがいいのよ、うふふふ。
ちょっと街で流行っていると噂のアレとか、なんだかよくわかんねーアーティストとコラボしたっぽい見た目はずいぶんシャレオツなアレとか、そういうほうがおすすめなの。
なによ、そんなチャラチャラしたのはオレの流儀じゃないって、へえー。
あーいるいる、そういう男。
もーそういう変な思い込みとかこだわりとかを捨てるところから始めなきゃだめよ、あなたちゃんとアタシにふさわしい男になってくれないと、誰がおっさんだ、てめえ会社でひとりぼっちで残業してる時に後ろから警備員に突然声かけられてちびりてえのか。
あのね、よく考えてみなさいよ、あなた、向こうは義理チョコをくれたのよ、義理チョコを。
お兄さん、義理に対しては何を返せばいいのか考えてみたことがあるの、人情じゃねえよ、てめーそこが間違ってんだよ。
義理に対しては義理をって、あんた歴史の時間に習ったでしょうが、授業中に居眠りばっかりしてるんじゃねーぞ。
だったらあなたの義理を返しなさい、人情じゃねえって何回言ったらわかるんだ、話聞かねえ男はモテねーぞ。
でね、あなた、あなたができる義理ってのはね、冒険することじゃないのよ、ベタに行きなさい、ベタに。
これは女子から人気があるんだとか、今トレンドなんだとか、なんだかよくわからないがとりあえず行列作ってるお店のやつだとか、そういうところから始めなさいよ、固くいきなさい、固く。
わかる?あなたが彼女に渡すのは義理チョコのお返しなのよ、義理チョコ。
うーんとりあえずいつもお世話になってるし、あの人にもいちおう渡しておこうかっていうチョコに対するお返しなのよ、何てめえ自分が本命気取りでいるんだよ勘違いもはなはだしいんだよ。
だったらあなた、徹底的にモブキャラ演じなさいよ、モブキャラとして今流行ってるスイーツとかド定番のなにがしとかそういうお返しで、彼女の背景となって、キラキラと輝かせてあげなさいよ。
そうやって他の人をキラキラさせてあげられるモブキャラを演じられるくらいしっかり腕を上げてこそ、あなたもアタシにふさわしい男に近づけるってもんよ。
わかったらさあ今から急いで買いに行くわよ、アタシとデートできるだなんて光栄でしょって、誰がおっさんだ、てめえ必死に徹夜して作業を間に合わせてちょっとだけ仮眠とったつもりがプレゼンに寝坊したみたいな夢を何度も何度も繰り返し見てうなされてえのか。
いいからさっさと出発しやがれってんだ。