もうはるか昔、10代の頃の話だけど、
友人たちとロサンゼルスに遊びに行った時、日本好きのピアニストのおっちゃんと知り合った。
後で知ったんだけど、実はその道では有名な人で何度も日本にも公演に来ていたらしい。
おっちゃんはその時、離婚したばっかりらしくって、郊外の砂漠に大きな犬と一緒に暮らしていた。
僕らは彼の砂漠の家に泊めてもらって、おまけに車で色んなところに案内してもらった。
ハリウッドボウルやビバリーヒルズ、フィッシャーマンズワーフ、そしてチョコレートメーカーのギラデリ・スクエア。
彼はその合間に各地に住む友人のところに挨拶に行き、僕らのことを
日本から来た友人なんだよ、って紹介してくれるんだけど、
そのたびに口癖みたいに、こう言っていた。
young and tall men...
very young...and....very tall....
あまりにも昔のことで、せっかく色んなところへ連れて行ってもらった記憶も
今はほとんど残っていない。
だけど、あの時のおっちゃんの、おどけたような、
そしてずっと遠くを見ているような表情だけは憶えている。
*
当たり前だけど、それから僕らは帰国して、
当たり前のように進学をして、
当たり前のように社会人となった。
そして当たり前のようにめちゃくちゃに働いて
めちゃくちゃに怒られて
それなりに仕事もできるようになり
スマートな物言いで若い人に指示を出したりするようになった。
最近の若者は、まじめで、かしこそうで、物分かりもいい。
ペラペラと英語が話せたり、バリバリにプログラミングができたりする。
でも、どこかで一線を引いている。
仕事はしょせん仕事でしかないとか、メシを食うための手段でしかないとか割り切っていて、
割り切った上で、我慢するしかないと思っている。
「いま、ここにいる自分」だけが全てじゃなくて、
友人や恋人と一緒にいる時や、趣味の世界に没頭している時や
世の中の課題を解決したいと夢見ている時の自分も、
同じかそれ以上に大事だと思っている。
趣味を語るなんて、10年早いんだよ。
自分の仕事を一人前にこなせるようになってからにしやがれ。
僕はつい、そう彼らに言いそうになる。
だけど、自分がいま追っかけてる地方のアイドルについて
目をキラキラさせながら夢中になって話す若者を見ていると
そんなことは野暮すぎて言えない。
何か、僕らが経験できなかった、
うらやましいような、しかし別にうらやましくないような、
なんだかよくわからない時間を、彼らは過ごしているように見える。
*
何か、新しい時代がやってきていると思う。
それは僕らが昔思い描いたようなかっちょいい未来とは
かけ離れているけど、あまり悪い気はしない。
それを邪魔するのは、なんか違うような気がする。
じゃあ僕らには何ができるか?
よくわからないけど、とりあえず自分が主役になるのを
あきらめることから始めるしかないと思う。
僕ら不況の子どもたちは、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが
主役を張るのをずっと指をくわえて見ていたから、
いざ自分の番がやってきた時に、なかなかステージから降りるのって難しい。
っていうか大抵の場合、まだ自分の順番が来てなかったりする。
だけど、そういうのをあきらめることから、始めるしかないように思う。
普通に合コンに行ったらモテるだろうに、
次に来るとかいう少女たちについて
周囲の目を気にすることもなく
熱く語り続ける若者の話を聞きながら
僕は心の中で小さくつぶやいてみる。
young and tall men......
日本からやって来た未熟な若者たちを
自分の家に泊めてくれたおっちゃんの気持ちが
ほんのちょっとだけわかるような気がする。
ちなみに、フルタ製菓のヤングでトールなお菓子といえば、
どでかばーチョコ。