フルタ製菓株式会社 ボツ案 

オンエア中のTVCMについてダラダラと書くにゃ

B君へ。






親愛なるB君へ。




先日、君から「しょせん、お菓子の広告だからね」と言われたことを

実は、僕はまだ根に持っている。



僕はこれまで自分がそういう性格ではないと思ってたけど

やはり巳年生まれというのもあるのかもしれない。

おまけに今年は年男だ。


だからかどうかは知らないが、とにかく、まだ根に持っている。



とはいえ、そのセリフだけを取り上げるのは、フェアじゃないと思うから

どんな文脈の中での会話だったのかも思い出していただきたいのだが

要は、世の中には色んな広告やマーケティングの方法があって

顧客をどのように呼び込んできて、自分たちの商品やサービスを体験してもらって

それを気にいってもらって、また使ってもらえるようにするために

不断の努力が必要だね、という至極まっとうな議論の最中だった。



君はそんな話の最中で、すごく気軽に、こう言った。



「まあフルタ製菓さんの場合はね、お菓子だからね、

気軽に話題作りをしたり、情報の拡散ができるよね。

しょせん、お菓子の広告だからね」



僕は、その時、さも物分かりよさげに、うんうんとうなずいてみせたけど

本当はすごくイヤな気分だったんだよ。

君の言葉の裏には、別の意味が含まれていると思ったからだ。



つまり、お菓子メーカーのような事業体はいずれにしても

一つ一つの単価が安いから、できるだけたくさん流通することが大切だし

そのために色んな手法を使ってとにかくにぎやかしたり

話題になったりすることが、ポイントになってくる。

そしてそこには他の事業における細やかな顧客への心配りとか

丁寧な分析とか、「高次元のシステムデザイン」なんて存在しないだろう?

という君からの痛烈な皮肉を、僕は感じ取ったのだ。



人間という生き物は、自分の弱いところをつかれた時にムッとするものだ。

だから、僕が君の発言を不愉快に感じたのは

今の自分の取り組みに関して

君が日頃から言っているような「賢そうな内容」が欠けていると、

自分自身で認識している証拠なのだと思って

その時はぐっとこらえた。



だけどねえ、B君。

やっぱりあの言葉はないんじゃないかな、と思うんだよ。



もちろん、お菓子がなくたって人間は生きていける。

なくてもいいものを売っていくというのは、なかなかファンキーな行為なので

たしかにワーッとにぎやかして、どさくさにまぎれて売っちゃうという

ある種の度胸も必要だとは思うよ。



だけど、そこには色んな人の色んな決断が存在してるわけで

君みたいな賢い人に、あんな風に言われるのはすごくショックというか

(まあ、けっして僕が賢い人間ではないからだけど)

残念でならないよ。




B君。


君は、フルタ製菓の美原工場の定刻がすぎて

お菓子作りに励んできた人々が、帰途につく姿を見たことがあるかい?



みんな笑顔なんだよ。


で、今日の晩御飯は何にしようかなとか、昨日はだんなと大喧嘩しちゃったから

帰ってきたら気まずいんだよねとか、他愛のない会話をしながら

すごく晴れやかな表情で、まぶしい西日の下を歩いて帰るんだ。



その時、僕はいつも思う。

人間の幸せって、なんだろうって。



机の上で「高次元のシステムデザイン」を設計するべく

難しそうな顔で眉間にシワを寄せている人と

今日一日の仕事をやりきって

愛する家族の夕食を作るために急いで帰宅する人と

どっちが幸せなんだろうね。




B君。


よく考えたまえ。


お菓子がなくても、人間は生きていけるかもしれないけど

地球だって、人間なんかいなくたって、困らないんだぜ。

なのに、人間ときたら、ここはオレたちだけの場所だとばかりに

ミサイルだの核兵器だのこしらえて、偉そうな顔をしているじゃないか。


だけど、地球は何も言わない。

じっと黙って、ニコニコと太陽の周りを回り続けているんだ。


そんな懐の深い大地主さんの土地を借りて暮らせていることに感謝をして、

毎日をもっと大切に生きたいと僕は思う。


そしてそこには「しょせん」とか「賢そう」とかいう言葉はいらないと思う。

欲しいのは、本当にみんながもっと幸せに暮らすための知恵だし

笑って毎日を送るための工夫なんだ。


だから、B君、お願いだから

自分たちのやっていることはすごく高級なことだとか

あるいはもっと賢そうなことをやるべきだとか、

そういう態度はお互いにもうやめようぜ。


バカでもいいじゃないか。

ボツでもいいじゃないか。



君にだって悩みがあるはずだし

人にはあまり言いたくないような趣味とかもあるはずだし

たまには、それを僕にこっそり話してくれないか。



お互いに正論ばっかりぶつけあっても、楽しくないよ。

世の中は、小さなベータ版の連続。

だったら、ちょっとした失敗は必要なんだし

それを共有できる人間を、仲間って呼ぶんじゃないのかな。



簡単にいえば、僕はもっと君と仲良くしたいんだ。



新発売のセコイヤチョコレート「とろける濃厚ホワイト」を

食べながら、今日あった楽しいできごとについて

話しあうほうが、ずっと有意義だと思うんだよ。



大人ってめんどくさいよね。

はじめから、もっとストレートに言えばよかった。






ところで、B君。


君は、あの彼女とはうまくいってるのかい?